歯が浮いたように感じる原因と対処法を歯科医が解説!
25.12.30
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【歯が浮く感覚のメカニズムは?】
◇歯の構造と役割
「歯が浮く」感覚を正しく理解するためにはまず、「歯の構造」を知っておくことが大切です。歯は外側から内側へと、エナメル質→象牙質→歯髄(神経)の3層構造になっています。さらに歯は、「歯槽骨」に支えられ、「歯根膜」という膜でクッションのように固定されています。
①エナメル質
歯の一番外側にある、とても硬い組織です。主にカルシウムなどの無機質からできており、外からの刺激(温度、酸、摩擦)や細菌から歯を守る鎧のような役割を果たします。しかし、一度虫歯などで溶けたり、削れたりすると、再生しません。
②象牙質
エナメル質の内側にある、やや柔らかい組織です。ここには細かい管(象牙細管)が通っていて、内部の神経(歯髄)と繋がっています。そのため、象牙質が露出すると「しみる」「ズキっと痛い」といった知覚過敏の症状が出やすくなります。
③歯髄(歯の神経)
歯の中心にあり、神経や血管が集まる部分です。ここが歯に栄養を送り、外からの刺激を感じ取るセンサーの役割も担っています。虫歯が進行して歯髄に達すると、強い痛みを感じるようになります。
④歯根膜
歯根と歯槽骨の間にある薄い膜状の組織です。衝撃を吸収する「クッション」のような働きをしており、噛む力を分散させています。また、噛みごたえを感じ取る感覚受容体も多く存在します。歯が浮く感覚の多くは、この歯根膜の炎症や圧迫によって起こります。
⑤歯槽骨
歯を支えている骨です。歯周病などでこの骨が溶けると歯がぐらついたり、浮いたような違和感が出ます。健康な歯を保つためにはこの骨の健康維持がとても大切です。
◇歯根膜の重要性と浮く感覚の関係
歯根膜はわずか0.2mmほどの薄い膜です。見た目には分かりませんが、歯を支える上で非常に大切な役割を持っています。主な役割は次のとおりです。
①クッションの役割(衝撃吸収)
噛む力は1本の歯あたり何十キロもかかることがあります。その力を直接骨に与えず、歯根膜が吸収して分散します。これにより、歯や顎の骨を守っているのです。
②感覚のセンサー
歯根膜は非常に多くの神経の末端があり、「噛みごたえ」や「圧力」を感じ取っています。例えば、ごはん粒ほどの小さなものでも、髪の毛のような異物を噛んだ時にすぐに気づけるのは、この歯根膜の感覚のおかげです。
③歯の位置を保つ
歯は常に力を受けて少しずつ動いています。歯根膜はその微妙な動きを調整し、歯を正しい位置に保つ働きをします。(矯正治療で歯が動くものこの歯根膜があるからです。)
④栄養と修復
歯根膜には血管も多く、歯や周囲組織に栄養を供給しています。また、損傷が起きた時は新しい組織を再生する力もあります。

【歯が浮く原因を徹底解説】
「歯が浮く」という感覚は痛みほど強くはないけれど違和感が長く続く不快な症状ですね。実はこの「浮く感じ」症状にはさまざまな原因が関係しています。「炎症」「力の負担」「全身の影響」などの観点から詳しく解説します。
①歯根膜の炎症
歯が浮く原因で最も多いのが「歯根膜炎」です。歯根膜はクッションのように衝撃を吸収する役割を持っています。この膜に炎症が起こるとわずかに腫れて厚みが増し、歯が骨の中で浮き上がったように感じる状態になります。主な原因は虫歯や歯周病、歯ぎしり、などです。
②歯周病による組織の破壊
歯周病が進行すると歯槽骨や歯根膜が壊れていくため、歯の支えが弱くなり、浮いているように感じることがあります。歯周病により歯肉が腫れたり、ぐらついたり、噛んだ時の違和感などの症状が起こります。
③噛み合わせ(咬合)の不調
歯の高さや位置の微妙なズレでも特定の歯だけに力が集中すると歯根膜が圧迫されて炎症が起こります。詰め物や被せ物の高さが合っていなかったり、矯正治療や親知らずの影響で歯列がズレたり、片側だけで噛む癖などがあると症状が起こることがあります。
④親知らず(智歯)による圧迫
親知らずが横向きや斜めに生えてくると隣の歯を押して歯列全体に力がかかり「歯が浮く」ように感じることがあります。親知らずが途中までしか生えておらず歯肉が被っていたり、智歯歯周炎や隣の歯を押して歯根膜が刺激されるなどが原因で起こります。
⑤ストレス、疲労による影響
意外かもしれませんが、精神的・身体的ストレスも歯が浮く原因になります。ストレスが溜まると無意識に「くいしばり」や「歯ぎしり」をしてしまうためです。また、ストレスによって血流が悪化し、歯根膜や歯肉の循環が低下すると、炎症が起きやすくなります。朝や疲れている時に感じたり、顎やこめかみにだるさを感じることがある場合はくいしばりや歯ぎしりをしている可能性があります。
⑥ホルモンバランスや体調の変化
女性はホルモンバランスの変化で歯肉が腫れやすくなり、歯が浮いたように感じることがあります。生理前後や妊娠中、更年期の時期は症状が起きやすいでしょう。また、風邪などの体調不良の時にも歯が浮くと感じることがあります。
⑦急性炎症、感染症
虫歯や歯根の炎症が進行すると、膿が溜まって歯が押し上げられるように浮くことがあります。強い痛みや拍動痛、歯肉や頬の腫れなどの症状がある場合は早急に歯科医院での治療が必要です。

【放置するリスク:歯が浮く症状がもたらす影響】
①歯根膜炎、歯周病の悪化
歯が浮く感覚の多くは、歯を支える歯根膜の炎症から始まります。しかし、この炎症を放置すると炎症が周囲の組織にまで広がり、歯周炎へと進行していきます。
②噛み合わせの悪化と顎関節症への影響
浮いた歯を無意識に避けて噛むようになると左右のバランスが崩れ、顎関節や筋肉に負担がかかります。特に食いしばりや歯ぎしりがある場合は症状が悪化しやすいです。
③歯髄の炎症、壊死
「歯が浮く」状態が長く続くと歯根膜の炎症が内部の歯髄にまで波及し、歯髄炎や神経の壊死を引き起こすことがあります。
④歯の動揺、脱落
歯を支える組織が炎症で破壊されると、歯がグラグラと動くようになり、最終的に抜け落ちることもあります。
⑤感染が全身に波及するリスク
歯や歯肉の炎症を放置すると細菌が血液を通じて全身に広がることがあります。
⑥見た目や生活の質の低下
歯が浮いたり、動いたりすると自然に食事や会話、笑顔にも影響が出ます。歯の違和感は想像以上に日常のストレスとなるのです。

【歯が浮く感覚がある時の対処法】
◇自宅でできる応急対処策
①痛みや腫れがある場合は冷やす
・頬の外側から保冷剤や氷嚢をタオルで包んで10〜15分程度冷やす
・血流を抑え、歯根膜や歯肉の炎症による痛みを抑える
・直接当てすぎると冷たすぎて歯や皮膚を痛めるため注意する
②食事や噛み方を注意する
・痛みのある歯で強く噛まない
・柔らかい食べ物を選ぶ
・熱い、冷たい、硬い、甘いものは刺激になるため控える
③鎮痛剤の使用
・市販の鎮痛剤を用法用量を守って服用する
・根本的な治療にはならないため、応急処置としての使用にとどめること
④口腔内の清掃を丁寧に
・歯ブラシは柔らかめのものを使用する
・歯と歯肉の境目、奥歯の溝まで優しく磨く
・歯間ブラシやデンタルフロスで食べかすを除去する
・強く磨くと逆に炎症を悪化させるため注意する
⑤うがいで細菌を減らす
・食後や寝る前に抗菌、殺菌作用のある洗口液を使用する
・歯肉の炎症を抑える効果がある

【日常生活での予防策】
「歯が浮く感覚」を予防するためには日常生活での生活習慣や口腔ケアが非常に重要です。
①正しい歯磨き習慣
・1日2回以上、特に夜の歯磨きは丁寧に行う。
・歯ブラシは普通〜やわらかめを使用し、歯と歯肉の境目や奥歯の溝まで優しく磨く。
・強く磨きすぎるのは歯肉に負担がかかるため注意する。
②歯間ケアの併用
・デンタルフロスや歯間ブラシで歯と歯の間の汚れを除去する。
・歯周病や炎症の原因となる細菌を減らす。
・歯間部の清掃は毎日行う。
③食生活の工夫
・砂糖の摂取を控える。(虫歯のリスク軽減)
・間食を減らし、酸性環境を作らないようにする。
・カルシウムやリン、ビタミンDを意識して摂取し、歯を強化する。
④適切な咬合管理
・歯ぎしりや食いしばりがある場合はナイトガード(マウスピース)を使用する。
・顎や咬合のバランスを整えて、歯根膜ヘの負担を軽減。
・就寝中の無意識の力も歯を浮かせる原因になり得る。
⑤定期的な歯科受診
・3〜6ヶ月に1回の定期検診とクリーニングで早期発見、早期治療。
・初期の歯周病や炎症を発見できれば、歯が浮く症状の悪化を防げる。
・歯科衛生士によるプロのクリーニングで細菌を徹底除去。
⑥口腔内の環境を整える
・フッ素入りの歯磨き粉や洗口液で再石灰化を促進。
・細菌の活動を抑制し、歯や歯根膜の健康を維持する。
・口腔内を清潔に保つことで炎症や歯の浮き感を予防。

【歯の健康を守るために】
歯が浮くような感覚は、歯根膜の炎症や噛み合わせ、親知らずなどが原因で起こることがあります。特に智歯周囲炎や歯周病による炎症や感染が進むと、歯肉の腫れや痛みがひどくなり放置すると抜歯となるケースもあります。違和感や症状が続く場合は、早めに歯科医師に相談し、適切な診療と治療を受けることが大切です。当院では、患者様のお口の中を丁寧に確認して効果的なケアをご紹介します。歯を支える骨や歯肉を守ることが、健康な歯を保つ第一歩です。定期的な歯医者でのメンテナンスでいつまでも快適で噛める口腔環境を維持しましょう。小さな違和感でも放置せず、早めに受診しましょう。
